どこか懐かしい雰囲気がただよう街、湊川と新開地。
かつて新開地は“東の浅草、西の新開地”と呼ばれ、映画館や芝居小屋が立ち並ぶ神戸一の歓楽街として賑わいました。
この記事ではそんな湊川と新開地の歴史をたどりながらぶらり歩いて楽しむ、おすすめの見どころをご紹介します。
庶民のまち・湊川と新開地
湊川と新開地は神戸の中心地・三宮から電車でも10分足らず。
華やかな繁華街というより、どこか人情味あふれる“下町の神戸”を感じられるエリアです。
湊川と新開地の歴史
形成期 明治後期
明治38年の「湊川」の付替え工事による埋め立てで、土地開発が始まる
明治40年 初めての芝居小屋「相生座」開業
明治44年 湊川公園が開園

全盛期 大正から昭和初期
劇場24館、商店202軒など活動写真館や芝居小屋が軒を連ねる神戸一の大繁華街へ
大正2年 西の帝劇と呼ばれた「聚楽館」建設開業
大正13年 湊川公園に「神戸タワー」建設
昭和4年 「神戸松竹座」新築開館
昭和20年 神戸大空襲で壊滅的被害を被る
復興期 戦後~昭和30年代
露店・闇市から始まり、やがて20以上の映画館が並ぶ「映画のまち」として復活
劇場や多くの商店も集まる、神戸の下町文化を象徴する娯楽の街が戻る
昭和32年 神戸市役所が三宮へ移転
衰退期 昭和40年代~
川崎重工の移転・縮小、映画産業の斜陽化による映画館の閉鎖
神戸の中心が三宮へ移りかつての賑わいが徐々に消失
昭和41年 神戸高速鉄道新開地駅開業
昭和46年 神戸市電廃止
日雇い労働者が多く住むドヤ街、風俗街、パチンコ店街、飲み屋街のイメージの近寄ってはいけない街、あやしい街へ変貌
震災以後~現在
地元自治体、商店街、NPO法人が中心にとなり、多彩なイベントで新たな文化芸術と交流の拠点を目指し活性化が始まる
平成30年 「神戸新開地・喜楽館」開業
平成8年 「神戸アートビレッジセンター」開館
令和7年 湊川の付替えから始まった湊川新開地誕生120周年
湊川公園

新開地本通の北の突き当りにある「湊川公園」。
かつてこの一帯には「湊川」という大きな川が流れていました。
湊川はたびたび洪水を起こしては市街地に被害をもたらしていたため、「湊川の付け替え工事」が行われたことにより川は移動し、埋め立てられた土地に公園が整備されました。

湊川は高さ6mの天井川だったので、もともとはこのトンネルの上が川でした。
天井川とは、川底が周囲の土地より高くなっている川のことです。
湊川公園はこのトンネルの上にあります。

「湊川公園」はかつて湊川新開地の中心的存在で、公園には東洋一といわれた「神戸タワー」がそびえたっていました。
今ではそんなタワーがあったことも忘れ去られ、神戸タワーを模したカリヨン時計塔がひっそりとたっています。

昭和初期の神戸タワー(高さ90m)の写真。
神戸タワーは老朽化のため、昭和43年に取り壊されました。

湊川公園のシンボルといえば「楠木正成像」。
楠木正成は湊川の合戦で足利尊氏軍の圧倒的な兵力に敗れ、この地で自害しました。
近くの会下山公園の頂上には、楠木正成が湊川の合戦の際に本陣を構えたことを示す「楠公湊川陣之遺跡碑」がたっています。
また、神戸駅近くにある楠木正成を祀る「湊川神社」には、正成の自害場とされる場所にお墓があります。
神戸一の繁華街だったその昔

川を埋め立てところにできた「新しく開かれた土地」――それが“新開地”。
かつては“東の浅草、西の新開地”と呼ばれ、映画館や芝居小屋が立ち並び、映画と芝居の街として全国にその名を知られていました。
両側に映画館や劇場がずらりと並び、週末には多くの人が押し寄せていたとか。

新開地本通アーケード街には、古くからの喫茶店、テーラー、一杯飲み屋、大衆食堂、パチンコ屋などがあります。

多聞通をはさんで南へ向かう新開地本通商店街。

川が流れているように見える、「ボートピア神戸新開地」前の通り。
ボートピア神戸新開地があるせいもあり、新開地はおっちゃん率の高い街。
安くておいしい酒と肴を求めるおっちゃんを、平日の昼間から見かけます。
昭和レトロななつかしい風景
今も残る映画・劇場文化

この道を抜けると昔は両側に映画館が並んでいて、神戸有数の演芸場や神戸松竹座もありました。

商店街アーケードにド~ンと掲げられた、大きなちょうちんが目印の演芸場は「新開地・喜楽館」。

新開地・喜楽館では上方落語を365日本格的に楽しめ、演目も多彩で寄席を気軽に体験できます。

「ええとこ、ええとこ、しゅうらっかん」と謳われた、かつてここにあった「聚楽館」の面影を残したド派手なビル。
聚楽館は演芸や映画館を楽しめた場所で、当時の娯楽の中心地として賑わいました。

「パルシネマしんこうえん」は、湊川公園の坂の途中にある昭和の映画館文化を現代に伝える映画館。

映画愛が感じられる映画館です。
かつて“映画の街・新開地”と呼ばれた伝統が、静かに受け継がれています。

「Cinema KOBE」は「新開地劇場」の前にあります。

芸術や地域文化の発信拠点「神戸アートビレッジセンター(KAVC)」は「新開地アートひろば」へリニューアルしました。
建物内には小劇場やギャラリー、シアターがあり、舞台公演や映画上映など、かつての“新開地の劇場文化”を現代に受け継ぐスポットです。

「新開地劇場」は大衆演劇専門劇場。
月替わりで人気劇団による公演が行われています。

宿泊料一泊1,550円、テレビ付きの看板のある「三和ホテル」は1959年創業。
戦後の新開地は全国から日雇い労働者が集まってきたドヤが数多くありました。
時代に取り残された建物が今なお現役です。

新開地本通のシンボルゲートの「BIGMAN」。
赤と青の隙間に浮かび上がるのは、チャップリンの山高帽。
メトロ神戸
「メトロ神戸」は新開地駅から神戸駅まで続く地下街。


チャップリンは昭和7年に新開地を訪れました。
エネルギッシュな新開地の街で、日本の生活や大衆文化を肌で感じたかったからといわれています。

両側に並ぶ手頃な居酒屋や飲食店。

「メトロ卓球場」はメトロ神戸の通路と並行に作られた長い卓球場。
気軽に卓球が楽しめると人気です。
おすすめグルメスポット
大衆中華来来

お手頃価格な街中華が楽しめる「大衆中華来来」。

「にんにくそば」をはじめ、麺、一品、などメニューは多彩。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
高田屋京店

「髙田屋京店」の名物はおでん。
おでん以外の一品料理も豊富です。

ランチの利用にも。こちらはご飯と味噌汁付きの「おでん定食」750円。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
湊川・人工衛星饅頭

湊川トンネルの交差点にある、地元ではちょっと有名な「人工衛星饅頭 大吉」のお店。

人工衛星饅頭という奇抜な名前ですが、要はどら焼きという感じ。

熱々で食べると一層おいしいです。1個100円。
神戸の台所・湊川市場へ
湊川公園の北側の「湊川市場」は、大正7年に湊川公設市場として開業しました。
湊川市場は東山商店街、湊川中央市場など、いくつかの市場と商店街が集まって形成されています。

立ち食いの「稲田串カツ」はどれでも1本130円で、ドリンクの持ち込みもOK。

昔ながらの八百屋、精肉店、魚屋、青果店、惣菜屋、花屋などが軒を連ねて、神戸の台所としてにぎわっています。

おいしそうな匂いが通りにあふれる「サキイカおかやん」。

その場でガラガラひいてくれるサキイカの味はやみつきになるほど。

いつも人だかりの八百屋の「青果ほりえ」。

ダイエーのあるみなとがわ商店街のアーケード街。
近年は市場の元気も以前ほどないような。
それでもごちゃごちゃ感あふれる市場は、あちこち目移りしながら買い物のワクワク感を体験できる楽しい場所に変わりないです。
まとめ
戦災や都市開発により、新開地の風景は”西の浅草”と呼ばれた時代から大きく変わってしまいました。
今はその面影もすっかり影をひそめてしまいましたが、アーケードの下には昔ながらの喫茶店、衣料品店、パチンコ店、飲み屋などが並び、その華やかな歴史は姿を変えながらも今も街のあちこちに息づいています。
かつては神戸一の繁華街だった新開地・湊川が、戦後の衰退を経て現在どう変わったのか、街の歴史をたどりつつ懐かしい時代の空気を感じながらぶらりと歩いてみるのもよいものです。

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